「地下構造物用丸型蓋(マンホール蓋)事件」控訴審判決

  • 2011年09月29日

「地下構造物用丸型蓋(マンホール蓋)事件」控訴審判決(知財高裁平成23年3月28日)をご紹介します。

「被控訴人製品は控訴人が有する特許権を侵害するものではない」とした原判決(大阪地裁平成22年1月21日判決)について、知財高裁は「被控訴人製品は、控訴人の特許権を文言上侵害しないが、均等侵害に該当する。」と判示しました。

1.本件の概要(平成22年(ネ)第10014号)
 (1)特許発明(特許第3886037号)
  【請求項1】
 丸型の蓋本体(10)と、この蓋本体(10)を内周面上部で支持する受枠(20)とからなる地下構造物用丸型蓋において、
 受枠(20)の内周面上部には、受枠(20)の内方に向けて凸となる受枠凸曲面部(21)を形成するとともに、この受枠凸曲面部(21)の上方に凹状の受枠凹曲面部(22)を連続して形成し、
 蓋本体(10)の外周側面には、前記受枠凸曲面部(21)に倣った凹状の蓋凹曲面部(11)を形成するとともに、この蓋凹曲面部(11)の上方に前記受枠凹曲面部(22)に倣った凸状の蓋凸曲面部(12)を連続して形成し、
 また、前記受枠凹曲面部(22)の上方には、受枠(20)の上方に向けて拡径する受枠上傾斜面部(23)を連続して形成し、前記蓋凸曲面部(12)の上方には、蓋本体(10)の上方に向けて拡径する蓋上傾斜面部(13)を連続して形成し、
 蓋本体(10)を受枠(20)で支持した閉蓋状態において、受枠上傾斜面部(23)と蓋上傾斜面部(13)は嵌合し、蓋凸曲面部(12)と受枠凹曲面部(22)および蓋凹曲面部(11)と受枠凸曲面部(21)は接触しないようにしたことを特徴とする地下構造物用丸型蓋。

注)( )の符号(図1、図2に基づく)および下線は筆者が追記しました。

・すなわち、特許発明はマンホールの蓋と受枠に係る発明であって、ポイントは、蓋本体(10)に形成される「蓋凸曲面部(12)」に対応して、受枠(20)に「受枠凹曲面部(22)」が形成されていることです。

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 ちなみに、本件発明の作用効果として、以下の①、②が挙げられています。
 ①『閉蓋の際、蓋凸曲面部(12)が受枠凸曲面部(21)によってガイドされながら移動し、バールで蓋本体(10)を引きずるようにしたり、蓋本体(10)を後方から押し込むだけで蓋本体(10)を受枠(20)内にスムーズに収めることができる』(本件作用効果①)
 ②『蓋本体(10)のガタツキを防止できるとともに、土砂、雨水等の地下構造物内部への浸入を防止できる』(本件作用効果②)

 (2)イ号製品
 被控訴人製品の受枠の対応部分は、凹面ではあったものの、曲面ではなく、断面が直線からなる『段部』でした。

2.裁判所の判断
 (1)文言侵害について
 被控訴人製品の『段部』は「凹曲面部でないことは明らかである。」ため、文言侵害には当たらないとしました(原審判決を維持)。
 (2)均等侵害について
 「明細書のすべての記載や、その背後の本件発明の解決手段を基礎付ける技術的思想を考慮すると、本件発明が本件作用効果①を奏する上で、蓋本体及び受枠の各凸曲面部が最も重要な役割を果たすことは明らかであって、『受枠には凹部が存在すれば足り、凹曲面部は不要である』との控訴人の主張は正当であると認められ、本件発明において、受枠の『凹曲面部』は本質的部分に含まれないというべきである。」として第1要件を充たすものとし、その他の第2~第5要件もすべて充たすため、均等侵害に当たるとしました(原審判決を変更)。

3.実務上の指針
 特許権侵害訴訟における均等論については、「ボールスプライン事件」(最高裁平成10年2月24日判決)において、「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合」、文言侵害に該当しないが、以下の第1~第5要件を満たすときは、「対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である」と判示されました。

第1要件 異なる部分が特許発明の本質的部分でない
第2要件 異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものである
第3要件 置き換えることに、当業者が対象製品等の製造時において容易に想到することができたものである
第4要件 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものでない
第5要件 対象製品等が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もない


 しかし、その後、均等侵害が肯定された裁判例はわずかであり、第1要件及び第5要件を充足しないとして否定される例が大半でした。ところが最近になって、「中空ゴルフクラブヘッド事件」(知財高裁平成21年6月29日判決)で、第1要件を認め均等侵害を肯定する判決が出され、話題となりました。
 本件では、本件特許発明の特許請求の範囲の記載中に「本質的部分でない」部分があることは、特許出願時の特許請求の範囲に発明特定事項として必要最小限の構成が抽出されていなかったことに他なりません。必要最小限でない過剰な限定記載をしないよう、出願時に十分注意することが大切だと考えます。

以上

「耐油汚れの評価方法事件」審決取消訴訟

  • 2011年09月01日

「耐油汚れの評価方法事件」審決取消訴訟(知財高判 平成22年5月27日(平成21年(行ケ)第10361号))をご紹介します。

特許法第29条第2項の判断に関し、本願発明とは課題及び技術思想の異なる引用発明を適用し、本願発明に到達するとの結論を導くことは許されないと判断されました。

(1)本願発明(出願番号:平11-331836号)
【請求項1】
 被評価物の表面を水平面に対して特定の角度に傾斜するように固定し、油脂とカーボンブラックとを有する特定量の擬似油汚れを該被評価物の表面に滴下し、続いて特定量の水を該擬似油汚れよりも上方の該被評価物の表面に特定の高さから滴下して、該擬似油汚れの残留状態により該被評価物の耐油汚れを評価することを特徴とする耐油汚れの評価方法。

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・本件発明の課題:被評価物の表面に付着した油汚れが、水洗いによってどれだけ除去されるものであるかという評価について、その評価を安価に行うことを目的とする。

・本件発明の作用効果:実際の油汚れは、油脂とカーボンブラックとを有する擬似油汚れに近似している。安価なカーボンブラックの黒色により目視による判断が容易であるので、擬似油汚れの残留状態によって被評価物の耐油汚れを評価できる。

(2)引用刊行物A(特開平9-295363号公報)
 引用刊行物Aに記載された発明は、基材に光半導体を含有する表面層を形成し、その表面層の表面平均粗さを1μm以上とすることで、表面層と水との接触角を小さくし、基材の表面の清潔度を維持する発明。

1_fig2

 

 

 

 

 

 引用刊行物Aの明細書には、基材の汚れの度合いを評価する方法が記載されている。その評価方法は、45°に傾斜したタイルの上端に懸濁水(カーボンブラックなどを含む水)を150ml滴下し、15分乾燥させる。その後、蒸留水を150ml滴下し、15分乾燥させる。これを25回繰り返した後、色差と、光沢度の残存率を求めることで、基材の汚れの度合いを評価する。

(3)引用刊行物C(特開平9-295363号公報)
 引用刊行物Cには、各種汚れに対する親水・撥水表面の防汚特性を把握する目的で、試料表面へ有機物が付着したときの影響を評価した実験結果が記載されている。その実験は、①まず、関東ローム(火山噴火物が粘土化したもの)および油の水分散液を試料表面に滴下後、直ちに水洗いする操作を繰り返して試料表面に有機物を付着させる。②次に、関東ロームの水分散液を防汚表面に滴下、乾燥後、流水にさらし、泥の水洗い除去性を測定する。

(4)裁判所の判断
 裁判所は、本願発明において油汚れを付着するために乾燥を必要としないとした技術が、引用刊行物Aに記載の評価方法に、引用刊行物Cに記載の技術事項①を組み合わせることによって、容易に想到することができたと審決が判断した点は誤りである、と判断しました。
 その理由を要約すると、以下のようになります。
 本願発明が乾燥工程を省いていることは、滴下した擬似油汚れを、そのままの状態で評価の一要素として用いるという技術的意味がある。
 これに対し、引用刊行物Aの記載では、「流下物の滴下、乾燥、蒸留水の滴下、乾燥」操作を25回繰り返している。このことから、引用刊行物Aには、丁寧な手順を行うことによって、確実で正確な客観的なデータを得ようとする目的の下に実施された実験過程が記述されていると解するのが相当である。
 引用刊行物Cは、試料表面に有機物を付着させる目的で、関東ロームおよび油の水分散液を試料表面に滴下後、直ちに水洗いする操作を繰り返している。引用刊行物C記載の発明における、「乾燥工程を経由しない滴下」という操作は、本願発明における同様の操作と、その目的や意義を異にするものである。
 よって、本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づく引用刊行物A記載の発明を起点として、同様に、本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づき実施された評価試験に係る技術である引用刊行物C記載の構成を適用することによって、本願発明に到達することはないというべきである。

(5)実務上の指針
 特許法第29条第2項の判断では、引用発明と相違する本願発明の構成が、本願発明の課題及び解決手段の技術的観点から、どのような意義を有するかを検討します。その相違点に関する本願発明の課題および技術思想と、引用発明の構成の課題および技術思想とが異なるものであれば、引用発明の構成を適用して、本願発明に到達することはないと判断されます。

以上