「餅事件」特許権侵害差止等請求控訴事件

  • 2011年10月18日

「餅事件」特許権侵害差止等請求控訴事件(平成23年(ネ)第10002号)をご紹介します。

 本件発明の構成要件B「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、」の記載のうち、「載置底面又は平坦上面ではなく」という記載は、「側周表面」であることを明確にするための記載であり、載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けることを除外するための記載ではないと判断されました。
 これにより、平坦上面および側周表面に切り込み部が設けられている被告製品は、本件発明の構成要件Bを充足し、さらに他の構成要件A、C-Eも全て充足することから、本件発明の技術的範囲に属すると判断されました。

(1)本件発明
【請求項1】(構成要件A-Eは、地裁及び高裁において分説されたものです)
A 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
B 載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、
C この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、
D 焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した
E ことを特徴とする餅。

本件明細書の図1 本件明細書の図2
3_fig1 3_fig2

 

(2)被告製品
3_fig3

 

(3)裁判所の判断
 裁判所は、①「特許請求の範囲の記載」全体の構文も含めた、通常の文言の解釈、②本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び③出願経過等を検討した結果、本件発明の構成要件Bの記載のうち、「載置底面又は平坦上面ではなく」という記載は、「側周表面」であることを明確にするための記載であり、載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けることを除外するための記載ではないと判断しました。

①特許請求の範囲の記載について
 「載置底面又は平坦上面ではなく」の直後に「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」の記載が読点が付されることなく続いていることから、「載置底面又は平坦上面ではなく」の記載は、「側周表面」を修飾しているものと理解するのが自然である、と認められました。

②本件明細書の発明の詳細な説明の記載について
 発明の詳細な説明の記載には、側周表面に切り込み部等を設け、更に、載置底面又は平坦上面に切り込み部等を形成すると、本件発明の作用効果が生じないという説明がされた部分はない、と認められました。

③出願経過について
 原告は、撤回した補正に関連した意見陳述を除いて、切餅の上下面である載置底面及び平坦上面には切り込みがあってもなくてもよい旨を主張していたことが認められました。

 なお、原告は、本件発明の出願経過において、本件発明は、餅の側周表面のみに切り込みが設けられる発明であるとの意見を一度は述べましたが、その後、再度意見書および補正書を提出し、その意見を撤回した経緯があります。
 原告が審判時に提出した回答書には、下記の記載がされています。
「本発明は,上下面にあろうが、側面にあろうが切り込みを形成することで噴き出しを抑制することを第一の目的としていますが、上下面に切り込みがあろうがなかろうが、切餅の薄肉部である立直側面の周方向に切り込みがあることで、切餅が最中やサンドウイッチのように焼板状部間に膨化した中身がサンドされた状態に焼き上がって、噴きこぼれが抑制されるだけでなく、見た目よく、均一に焼き上がり、食べ易い切り餅が簡単にできることに画期的な創作ポイントがあるのです(もちろん上下面には切り込みがない方が望ましいが、上下面にあってもこの側面にあることで前記作用・効果が発揮され、これまでにない画期的な切餅となるもので,引例にはこの切餅の薄肉部である側面に切り込みを設ける発想が一切開示されていない以上、本発明とは同一発明ではありません。)。」

(4)実務上の指針
 本件発明の出願よりも前から、餅の平坦上面に十字に切り込みを入れたものは公知技術でした。このため、本件の特許請求の範囲および明細書では、本件発明を公知技術と明確に差別化した記載がされていました。また、審査経過では、餅の側周表面のみに切り込みが設けられる発明に限定しようとした経緯もありました。このため、訴訟において被告から、本件発明は、餅の載置底面又は平坦上面に切り込みを入れることを除外したものであると主張されました。
 しかし、本件発明の創作のポイントは、側周表面に切り込みを設けることで、餅が最中やサンドウイッチのように焼板状部間に膨化した中身がサンドされた状態に焼き上がることです。そうであるならば、側周表面に切り込みを入れたものに、さらに平坦上面に切り込みを加えたものは、本件発明の技術的範囲に含まれることは明らかです。
 今回の事件に鑑み、有効な権利活用のできる特許を取得すべく、下記の①-④に注意を払うべきです。
①特許請求の範囲の記載において、否定的表現は誤解を招きやすいので、できる限り避けること
②特許請求の範囲の記載における読点の使用に十分注意すること
③明細書の記載に関し、技術思想を正確に捉えたうえで、必要のない記載をしないこと
④審査過程では、特許請求の範囲の記載に無用な限定はしないこと

以上