「耐油汚れの評価方法事件」審決取消訴訟

  • 2011年09月01日

「耐油汚れの評価方法事件」審決取消訴訟(知財高判 平成22年5月27日(平成21年(行ケ)第10361号))をご紹介します。

特許法第29条第2項の判断に関し、本願発明とは課題及び技術思想の異なる引用発明を適用し、本願発明に到達するとの結論を導くことは許されないと判断されました。

(1)本願発明(出願番号:平11-331836号)
【請求項1】
 被評価物の表面を水平面に対して特定の角度に傾斜するように固定し、油脂とカーボンブラックとを有する特定量の擬似油汚れを該被評価物の表面に滴下し、続いて特定量の水を該擬似油汚れよりも上方の該被評価物の表面に特定の高さから滴下して、該擬似油汚れの残留状態により該被評価物の耐油汚れを評価することを特徴とする耐油汚れの評価方法。

1_fig1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・本件発明の課題:被評価物の表面に付着した油汚れが、水洗いによってどれだけ除去されるものであるかという評価について、その評価を安価に行うことを目的とする。

・本件発明の作用効果:実際の油汚れは、油脂とカーボンブラックとを有する擬似油汚れに近似している。安価なカーボンブラックの黒色により目視による判断が容易であるので、擬似油汚れの残留状態によって被評価物の耐油汚れを評価できる。

(2)引用刊行物A(特開平9-295363号公報)
 引用刊行物Aに記載された発明は、基材に光半導体を含有する表面層を形成し、その表面層の表面平均粗さを1μm以上とすることで、表面層と水との接触角を小さくし、基材の表面の清潔度を維持する発明。

1_fig2

 

 

 

 

 

 引用刊行物Aの明細書には、基材の汚れの度合いを評価する方法が記載されている。その評価方法は、45°に傾斜したタイルの上端に懸濁水(カーボンブラックなどを含む水)を150ml滴下し、15分乾燥させる。その後、蒸留水を150ml滴下し、15分乾燥させる。これを25回繰り返した後、色差と、光沢度の残存率を求めることで、基材の汚れの度合いを評価する。

(3)引用刊行物C(特開平9-295363号公報)
 引用刊行物Cには、各種汚れに対する親水・撥水表面の防汚特性を把握する目的で、試料表面へ有機物が付着したときの影響を評価した実験結果が記載されている。その実験は、①まず、関東ローム(火山噴火物が粘土化したもの)および油の水分散液を試料表面に滴下後、直ちに水洗いする操作を繰り返して試料表面に有機物を付着させる。②次に、関東ロームの水分散液を防汚表面に滴下、乾燥後、流水にさらし、泥の水洗い除去性を測定する。

(4)裁判所の判断
 裁判所は、本願発明において油汚れを付着するために乾燥を必要としないとした技術が、引用刊行物Aに記載の評価方法に、引用刊行物Cに記載の技術事項①を組み合わせることによって、容易に想到することができたと審決が判断した点は誤りである、と判断しました。
 その理由を要約すると、以下のようになります。
 本願発明が乾燥工程を省いていることは、滴下した擬似油汚れを、そのままの状態で評価の一要素として用いるという技術的意味がある。
 これに対し、引用刊行物Aの記載では、「流下物の滴下、乾燥、蒸留水の滴下、乾燥」操作を25回繰り返している。このことから、引用刊行物Aには、丁寧な手順を行うことによって、確実で正確な客観的なデータを得ようとする目的の下に実施された実験過程が記述されていると解するのが相当である。
 引用刊行物Cは、試料表面に有機物を付着させる目的で、関東ロームおよび油の水分散液を試料表面に滴下後、直ちに水洗いする操作を繰り返している。引用刊行物C記載の発明における、「乾燥工程を経由しない滴下」という操作は、本願発明における同様の操作と、その目的や意義を異にするものである。
 よって、本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づく引用刊行物A記載の発明を起点として、同様に、本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づき実施された評価試験に係る技術である引用刊行物C記載の構成を適用することによって、本願発明に到達することはないというべきである。

(5)実務上の指針
 特許法第29条第2項の判断では、引用発明と相違する本願発明の構成が、本願発明の課題及び解決手段の技術的観点から、どのような意義を有するかを検討します。その相違点に関する本願発明の課題および技術思想と、引用発明の構成の課題および技術思想とが異なるものであれば、引用発明の構成を適用して、本願発明に到達することはないと判断されます。

以上